株式会社EBILAB 代表取締役 小田島春樹氏を講師に迎えて、オンライン講演会を実施しました
昨今、「DX」という言葉を新聞やビジネス誌など、やたらと耳にするようになったと思いませんか?
今回は、三重県伊勢の老舗食堂「ゑびや大食堂」(以下、「ゑびや」と呼ぶ)にデジタルを導入し、売上や社員の労働環境などを向上させた
「有限会社ゑびや」代表取締役社長、「株式会社EBILAB」の代表取締役・ファウンダー 小田島 春樹氏(以下、「小田島氏」と呼ぶ)のご講演をレポートします。
小田島氏が「ゑびや」で行った成功事例はマイクロソフトの総会で紹介されるなど、世界も注目する中小企業のデジタル導入事例です。
*本講演は、主催企業様が毎年行っている定例総会の中で実施された講演であり、主に小売や飲食業の経営者を対象とした講演でした(今回はコロナの影響で対面式ではなく、オンライン形式での講演でした)。
“ 今どきのイケメン経営者 ” 失礼ながら私が初めて小田島氏とお話しさせていただいた際の第一印象です(笑)。
講演を聴講し、小田島氏の「実行力」や「先見力」など驚嘆する内容に、“単なるイケメン経営者”ではないと思い知らされます。講演内容についてレポートする前に、
まずは、小田島氏のご経歴を紹介させていただきます。
小田島氏は1985年に北海道で生まれ、10代の頃から自身で輸入業やECビジネスを手掛けられ、大学卒業後、ソフトバンクに入社し、組織人事や新規事業・営業企画を担当されました。
その後、2012年、奥様の実家が営む「有限会社ゑびや」に入社され、当時そろばんや手切りの食券を扱っていた老舗食堂を、デジタルデータを駆使した徹底的な経営改革によって売上を7年で5倍にされました。
小田島氏のプロフィール(詳細)については下記のリンクをご覧ください。
講師SELECT 小田島春樹氏プロフィール
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それでは講演内容についてのレポートに移ります。
講演の冒頭に動画が流れ、伊勢神宮の神々しい景観、その後、お伊勢さんの門前町にある「ゑびや」の店内やその周辺が映し出され、非常に情緒ある動画に思わず引き込まれます。
動画が終了すると同時に、小田島氏が画面に現れ、簡単な自己紹介をされます。
ソフトバンクの孫正義氏にあこがれて北海道から上京。22歳の時、新宿歌舞伎町で客引きの仕事をし、そこで人がモノを買うときの行動属性を学んだそうで、27歳の時、ソフトバンクで人事と営業企画に携われました。その後、なぜ「ゑびや」に入社したのかについてお話されます。
「ゑびや」(三重県伊勢市)に入社した当時、周囲からよく聞こえてきた言葉があったそうです。
「地方だからできない」
「人がいないからできない」
「知らないからできない」
自分たちが出来ない理由を、この言葉を使って言い訳にしているのではないかと、小田島氏は疑問を持ち、それならば、「自分たちが伊勢という場所で、データを使った元気なお店づくりをしたい!」と思うようになったそうです。
先に述べたように、小田島氏が店長に就いた頃、「ゑびや」はそろばんや手切りの食券を扱っていた老舗食堂でした。
小田島氏は「自分と仕事をすることは変化を楽しむことです」と言い続け改善を進めたのですが、当時は多くの社員が退職されたそうです。
また、当時は資金もあまりなく、店頭の看板などは小田島氏自身で本を参考にデザインを勉強し作成されたとか。
しかし、その後、「伊勢神宮式年遷宮」で参拝客が増加したこともあり、「ゑびや」の売上も上がり、自分たちが自前で作成した看板はイケてるんだと錯覚したことも。
何が本当に売上に効果があったのか、切り分けができていなかったと当時を振り返っておられました。
売上は上がるものの、社員の労働環境はなかなかホワイト化できず、店舗経営を改善するにはデジタル化を行い、生産性を上げる必要があると強く思われたそうです。
ここまでが、講演の前半部分で、主に「ゑびや」がデジタル化に至った経緯についてお話しされましたが、小田島氏が「ここからが今日の本題です。」と言われた後半部分のうち、いくつかのポイントをご紹介します。
一つ目は、『時代認識と私たちの変化』について
なぜ、「ゑびや」は変化する必要があったのかについて、もう少し詳しく説明されました。
厚労省の統計によると「日本の人口動態は、2060年までに現在の人口の約3割が減ってしまう」
この統計により、ほぼ確定している事実は以下の2つでした。
① 伊勢神宮のマーケットも減少する。
② 生産年齢人口(労働人口)も減少するので、人の採用が難しくなる。
⇒その結果、小田島氏は 『 変わらなければ衰退するのみ 』 との見解に至ったそうです。
そこで、小田島氏が考えたことは、
●いくつかのリスクに備え、既存事業にだけ依存しない。
●経営者自身(自身)の考えをアップデートする必要がある。 でした。
二つ目は、『データから捉える市場の変化』について
コロナ禍で伊勢神宮の通行者数がコロナ禍前に比べ約45%減少しており、小田島氏は、
この現象は、先に述べた30年後、すなわち2060年の未来と同様の現状が、今起こっていると考えました。
この状況に対して「ゑびや」が行ったこと(中小企業が取り組むべきこと)は、
データを分析し、可視化すること だったそうです。
「ゑびや」では、①売上のサマリー、②顧客の属性、③天候などの外部要因、④通行料・入店率、⑤原価、⑥アンケート を徹底的に分析し、可視化することで売上向上に繋げたとのことです。
また、「ゑびや」は来客予測AIを使って、仕込み、食材、シフト作成に役立て、その結果、食品ロスや写真の長期休暇取得などの成果が出たとのことです。
三つ目は 『 コロナ禍の戦い方 』 について
コロナの影響が広まった頃、以前は年配のお客が多かったのが、徐々に若い客の割合が増えていることがデータ上で判明し、商品も若者向けに変えていったとのことで、また、東京など都会からの客が減り、地元客の割合が増えたため、広範囲への広報である「WEB広告」の費用を減らし、単価を抑えたメニューや見映えのするメニュー(SNSに投稿できる)に変えていったそうです。
但し、第4、第5波とコロナの影響が続く中で、客数の大幅な減少には対応できなくなっており、そんな中、今後は正常化することを見据えた商品開発(比較的若い層を対象としたテスト商品)を行っているとのことです。
講演終盤には「ゑびや」の社員や働き方についても言及されました。
「ゑびや」はリモートワークを推奨して、もう4年になるとのことで、社内ではマイクロソフトのTeamsのツールなどを利用し、全てのタスクや業務の進捗を全社員が見える(共有できる)ようにしているとのことです。また、小田島氏はデジタル化にすることのメリットとして、「コア業務にリソースを注力できること」を挙げており、一方で売上を生まない業務は、極力、デジタルの力を使う、またはアウトソーシングするべきだと力説されていました。
小田島氏の考えの根底に、
「サービス業はどれだけお客様に質の良いサービスを提供できるかが重要であり、社員ひとりひとりがコア業務(=お客への接客・サービス)に注力できるような環境をデジタルの力を使いながら作っていきたい」との考えがあるとのことです。
講演の最後には、「今後、コロナは徐々に鎮静し、正常化するだろうが、またコロナ禍のような時代がやって来るかもしれない。その時に備えて、デジタルを活用した新しい事業を準備する必要がある。」とのメッセージを贈られ、あっという間に90分の講演が終了しました。
小田島氏の講演について、どのようなデジタルツールを使って生産性を上げ、売上に繋げてきたのか非常に興味深い内容でありました。
但し、それ以上に老舗食堂にデジタルを導入した経緯や、それに至った小田島氏の「決断」、また決して社員全員が賛同してはいなかったデジタル化をどのように進めていったのかなど、身を持って体現されてきた小田島氏の話には説得力があり、今後、自社にデジタル化を導入しようと考えている企業の経営者の方々には是非とも、お聴きいただきたい講演であると思いました。
●尚、当協会が主催いたします『第135回 経営セミナー 「全国経営者大会」(2022年1月26日~28日/東京帝国ホテル)』に、小田島氏にご講演いただきます!
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文責:小松